東京高等裁判所 昭和47年(ネ)2496号 判決 1974年12月18日
控訴人 飯野茂
被控訴人 国
訴訟代理人 筧康生 ほか一名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴人代理人は主文第一項と同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張並びに証拠の関係は、次に附加するほか原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。
控訴代理人は、
仮に被控訴人主張のとおり陸軍省と控訴人間に本件土地の売買契約がなされているとしても、控訴人は、終戦後遅くとも昭和二一年末頃から、姉の訴外飯野静枝を占有補助者として、右売買の事実を知らず、本件土地のうち別紙物件目録記載の土地を所有の意思で耕作し、昭和二八年より昭和二九年頃にかけて訴外市川元康、同森専一、天理教集会等に宅地として賃貸し今日に至つており、右占有のはじめ善意、無過失であつから、昭和二一年末頃より一〇年の経過をもつて右土地の所有権を時効により取得した。
と述べ
被控訴代理人は、
一、控訴人の取得時効の主張は、控訴人の故意又は重大な過失により時機に遅れて提出された防禦方法であつて、これがため訴訟の完結を遅延せしめるものと認められるから、民事訴訟法第一三九条により却下されるべきものである。
二、前記控訴人主張の事実のうち、控訴人が昭和二八年から昭和二九年頃にかけて本件土地の一部(但し、控訴人主張の面積とは異なる)を他に賃貸していたことを認め、その余は争う。控訴人は、本件土地が国に買収されたことを知つていたか、少くとも、これを知らなかつたことにつき過失があつたから、控訴人の取得時効の主張は失当である。
と述べた。
証拠として、控訴代理人は当審における控訴人本人尋問の結果を援用した。
理由
当裁判所も被控訴人の本訴請求を正当として認容すべきものと判断し、その理由は、次に附加するほか、原判決理由に説示するところと同一であるから、これを引用する。
一、右引用に係る原判決の事実認定に反する当審における控訴本人尋問の結果は措信し難い。
二、控訴人は当審に至つてはじめて「控訴人が時効により別紙物件目録記載の土地の所有権を取得した」旨の抗弁を提出しているけれども、控訴人が原審において右抗弁を提出できなかつた格段の事由が存したことは記録上認められないから、右抗弁は、少くとも重大な過失により時機に遅れて提出された防禦方法といわざるをえず、しかも、これがため訴訟の完結を遅延せしめるものと認められるから、民事訴訟法第一三九条第一項により却下を免れない。
従つて、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がなく棄却されるべきである。
よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 満田文彦 真船孝允 小田原満知子)
別紙物件目録<省略>